ESD: 牽引の目的は剥離ラインの明瞭化です

 糸付きクリップやS-Oクリップなどで牽引をかけると,世界が変えることが可能です.ただ,きちんと使わないと,思ったほど変わらないということになります.

 胃のESDで取り敢えず,困ったから牽引してみるトレイニーがいますが,だいたいうまくいきます(これがやっかいです).しかし,取り敢えず引っ張れば,何かうまいことやってくれるので,なんとなく牽引をかけている人はどこかでつまずきます.

牽引の目的

タイトルにもあるように剥離ラインの明瞭化です

牽引による粘膜下層のテンションが増えることで剥離効率の向上も得られますが,引っ張ること自体が目的化してはいけません

 潜り込みにくい時など,剥離ラインが分かりにくい.

ファイバー側反対側へ牽引することで粘膜下層が視認しやすくなり,剥離ラインが明瞭化する.

牽引の方向

絶対的な牽引方向

 糸付きクリップは基本的に口側(大腸では肛門側)にしか引けません.S-Oクリップはアンカークリップ次第でどちらでも引けます.この方向は体の位置の中でどっちに牽引するかという絶対的な方向です

相対的な牽引方向

 牽引方向の話をする場合,ファイバー側に引くか,ファイバー対側に引くかという相対的な方向の問題があります.アンカークリップで牽引方向を変えるときに,これをわかってないと話がややこしくなります.たとえば,糸は口側に引くのに,「奥に引こうか」と術者が言ったときに,わかってない助手は奥に引く(ファイバーと反対方向に引く)ということがイメージできません.まー見たら一目瞭然ですが.

ファイバー側へ牽引する意義

ファイバー対側へ牽引

反転しやすい食道や,大腸のLST-NGはファイバー対側へ牽引しても粘膜下層が展開しにくい.

完全に粘膜が反転すると粘膜下層が進展され,薄くなるという現象が起こる.この粘膜下層の過伸展を初心者のうちは理解しておらず,中盤に両端の全周切開ライン近傍や中央部で筋層損傷を引き起こします.

ファイバー側へ牽引

 ファイバー側へ牽引することでアタッチメント分の空間が確保され,粘膜下層を直視しやすくなり剥離ラインが明瞭化します.

アンカークリップの使用

 アンカークリップを用いることで牽引の方向を変えることが可能です.

 完全に反転してしまった粘膜

アンカークリップで牽引方向を変えることで剥離ラインが明瞭

使いどころの例

 胃で口側からアプローチしなくてはいけない状況(胃体上部・中部や前庭部)で牽引を肛門側方向にかけたい場合,口側に糸付きクリップをかけます.

 また,食道や多くの大腸ではファイバー側へ牽引をかけますが,これは完全に病変が反転してしまうと剥離ラインが分かりにくくなるためです.胃の場合は粘膜が厚く完全に反転することはまれです(大腸のLST-Gも完全反転しにくいです).そのため,胃の場合多くはファイバー対側へ牽引します.しかし胃でも大きな病変になると完全に反転して,食道や大腸と同じように剥離ラインが牽引をかけても分かりやすくなりません.そんな時はアンカークリップで牽引方向をかけてあげる必要があります.S-Oクリップでもスプリングの途中でアンカークリップをかけることで牽引の方向を変えることができます.

アンカークリップはどのメーカー

 糸付きクリップのアンカーは何でも可能ですが,S-Oクリップのファイバー側へのクリッピングは手前に引く必要があります.以前はゼオクリップでリングをクリップにひっかけてアウターシースを再収納して把持していましたが,いまはSureClipがあるので,手前にアンカークリップをかけるときはSureClipで把持して,粘膜へ押し当てて,ゆっくり開いて,粘膜を把持しきちんとクリップにリングがかかっていることを確認してファイアーするようにしています.これによりミスが激減しました.

臓器別各論

食道

 食道は粘膜が薄いためすぐに病変が反転してしまいます.

 牽引は構造上,病変口側にかけて口側にしか引きません.理論的にはアンカークリップで肛門側に引けますがすることはないでしょう.全周切除など巨大病変の場合は2,3個かけることもあります.フラップ作成もそれほど困難でないので全周切開後に早めに口側に糸付きクリップをかけると時短になります.

 基本的に反転操作時には肛門側にかけて,口側へ引っ張ります.口側からのアプローチの場合は口側に糸付きクリップをかけて,後述のアンカークリップで肛門側にベクトルを変化させます.

おまけ:前庭部でいるか?

 初心者の場合は粘膜下層の潜り込みに難渋することがあり,補助としてアンカークリップ+糸付きクリップで粘膜下層を展開させてあげると完遂しやすくなり,満足度がアップします.ついている指導者も安心です.

 中級者はアンカークリップを使わなくても,前庭部の大きい病変は口側に引くだけでテンションが増加し剥離効率がアップします.

大腸

大腸では牽引方向に悩やむことがありますが,原則はファイバー側に引くほうが食道と同じ理由で有用です.しかし,大腸では初心者の場合,潜り込めない(フラップ作成に失敗する)ことがある.そのリカバーを優先する場合はファイバー対側へ引くほうがフラップ形成(潜り込み)に有用です.ただ,剥離が進んでいくと牽引効率が低下し,思ったほど剥離ラインが明瞭しなくなります.

対策としては

エンドポイントのトリミングを十分しておく(フラップ作れない術者はたいていエンドポイントのトリミングもできませんが).

アンカークリップでファイバー側に牽引方向を変える

などがあります.

コメント

タイトルとURLをコピーしました